サハラ砂漠マラソンMDS体験記〜日本酒(アルコール1%未満)作り編〜
日本酒プロデューサーの石坂晏敬です。
2019年の4月にサハラ砂漠マラソンMDSに参加し、無事に完走を果たしました。
今回はサハラ砂漠マラソンMDS中に作った日本酒(アルコール度数1度未満)について。
※酒税法上アルコール度数1度以上の飲料を作っては行けない事が法律で決まっています。
サハラ砂漠で日本酒(アルコール度数1度以下)を作ろうとした理由
今回のサハラ砂漠マラソンMDSに昨年の4月にエントリーを行い、
時間の経過とともに過去の参加者の方々から貴重な情報を聞いているうちに
ただ参加するだけではつまらないという思いが発生してしまった。
なにかネタがないかなと考えていたのですが
ふと蔵人としてお酒を作っている時に
”サハラ砂漠で日本酒作ったら世界初の試みになるんじゃね”
と思いたち、
人生のネタ作りのためにレース中に微生物さんの活動観測を試みることとした。
日本酒作りの準備品
- 米麹
- 乾燥酵母
- 非常食のアルファ米
- 水(大会で支給されるもの)
これらを大会前日の荷物チェック前に使用して仕込みを完成させる。
日本酒の仕込み
大会前日に荷物チェックがあり、
その際にレースに持っていく以外の荷物を全て預ける事になる。
この段階で仕込みを開始して醪の状態とする。
この瞬間から発酵が始まる。
米麹が米のデンプンを糖に溶かす活動と
酵母が糖をアルコールと炭酸ガスに発酵する活動が
同時に始まる。
1時間もしないうちに炭酸ガスが発生しはじめ、
容器がふくらみ始める現象が始まった。
発酵が活発化する
大会前日の夜にはすでに発酵が活発化して
フタを締めて放おっておくと破裂することが容易に想像できる状態となったので
テント内のテント支柱(ただの木)に紐でくくりつけてフタを締めず乗せておくだけの状態として夜は放置した。
そのような状態で大会1日目を迎えた。
とても扱いが難しい。
正直とても面倒なやっかいなものを取り扱ってしまったと感じて
レースに臨むこととなった(汗)。
キャップに手が簡単に届く状態を確保した。
レース中は定期的に(おそらく10分おきくらい)キャップを開けて
容器内の炭酸ガスを抜く作業を行った。
めちゃくちゃ手がかかる微生物さん。
気持ち的に容器をあまり揺らしたくないという気持ちが強くなり、
極力揺れないように歩くようにしてレースを進めた。
ステージ1を終了して
レースが終わり、発酵がさらに進み、1リットル容器では収まらなくなってしまい
醪最初の独特の甘い良い香りがしっかりと立っていた。
お米と麹もすっかり溶けてしまい、形はなくなり白い液体状になっていた。
この夜も容器が破裂しないように紐でくくりつけて放置して睡眠。
ステージ2では
キャップの開け閉めをできるようになったので前日に比べ扱いが楽となった。
15分おきくらいにキャップの開け閉めを行い、その都度しっかりとプシュ〜と音がした。
ステージ2もあまりシェイクされないように歩きを徹底してゴール。
この夜も容器の中ではシュワシュワ・プツプツとしっかりと音がしていた。
ひもでしっかりとくくり放置して夜を過ごす。
発酵が急におとなしくなる。
醪の状態がどうなるかはとても不安であったがこのレースは全て走った。
前日までよりも発酵が収まっていたため、気づいた時にガス抜きする程度で進められた。
レース中は走っていたため、容器内の醪はとにかくシェイクされた。
ステージ3終了後、醪の発酵状態が明らかに衰えた。
フタを締めた状態にしていても炭酸ガスがほとんどたまらない。
シェイクし過ぎと熱で酵母が死んでしまった?か
もしくは糖が増えて酵母が動きを取れなくなった?か
などを想定し、後者なら水を増やせば解決するので
3-40mlの水を加えて様子を見てみた。
数時間後に様子を見たら多少発酵が進んだので糖の密度を薄めることが出来たと
解釈することが出来た。
ただ、明らかに発酵のチカラは弱くなっている。
その後はステージ4〜ステージ6まで
この状態が続き、醪もかなりシェイクされ、熱も加えられながら過ごすこととなった。
ついに完成。味はどうだったのか?
さらに翌日、バスでマラケシュまで移動して
夜、ついに仲間の前で醪さんを試飲することとした。
正直ステージ3の発酵が急に収まったときから、酵母さん死んでしまったのかな
と思っていた。
水を加え、アルコール感を1%以下に抑え、
コップに注ぎ、それぞれ飲んでみることに
醪の甘みをしっかりと感じつつ、アルコール感も程よく発生していて
旨味成分もそれなりに出ていると感じることが出来た。
要はしっかりと日本酒になっていたということである。
仲間の声として
「めっちゃ日本酒じゃん」
「めちゃくちゃうま〜い」
などとうれしいお声をいただくことが出来た。
ということで今回の試みは大成功ということだ。
感想
今回、サハラ砂漠という高温低湿で紫外線のチカラがとても強い
という環境下で微生物さんがどんな働きをするのかがとても興味があったのだが
凄まじいチカラをもっているなと感じることが出来た。
あのような劣悪な環境下であっても
しっかりとそれぞれの役割を果たすという素晴らしい結果であった。
今後も酒造りに関わりたいと思ったことは言うまでもない。
この経験値は自分にとってとてもおもしろく人生を豊かにしてくれたことは間違いない。
あの味は一生忘れないだろう。